Joyoliving News : 2020年04月27日掲載

暗い顔を、紅く染めた

石岡、子ども輝く理想郷を整備

「たけちゃん」こと福島毅さん(石岡市在住、44歳)は、流木や鉄くずなどの廃材で独創的な看板を造るクリエイター。自我を抑えつけうつ病に苦しんだ青春時代から一転、四十を過ぎ自由奔放な創作で自己を解放。子どもたちが五感の赴くまま自然体験できるキャンプ場を八郷地区の工房敷地内に整備し1年が経つ。


「コロナの影響?自分が今やりたいことをやるだけや」=4月16日、石岡市宇治会の「看板屋たけちゃん」工房

「ここはほんまに静か。ええとこでしょう?」
時折軽トラが走り、菜の花が風に揺れる。たけちゃんの工房は八郷盆地の北、恋瀬川沿いのライスセンター跡地にある。3年前夫婦で引っ越し、昨年春に建物を借り独自にカスタマイズ。最近では敷地内に畑やたき火場も造った。

看板作りの材料は流木や朽ちた材木、壊れた家具のパーツや機械のスクラップなど。はた目には産業廃棄物だが、たけちゃんにとっては宝の山。設置場所の動線や店の雰囲気、店主の歩みなども聞き取り「素材もお客さんも、自分も輝ける仕事」を目指す。

今や営業活動せずとも都内の有名ショップや感度の高い県内の飲食店から依頼が舞い込む。身の丈以上の稼ぎはいらない。「本当に困った時は、不思議と誰かが助けてくれるから」女神

1872年(明治5)、官営の富岡製糸場が稼働し生糸生産は文字通り国策に。ヨーロッパでは繊維業が急成長したが蚕の病気が大流行。日本の生糸は国際市場で歓迎された。経済史学の観点から当時の国内事情を調べると、近代化の過程で蚕糸業に携わる女工らは資本家による搾取や低賃金労働などにさらされていた。

一方、民俗学の文献では故郷の筑波山麓にある蚕の神様を祭った蚕影神社と、養蚕農家の女性の間で信仰された「金色姫物語」に行き当たった。継母に憎まれた天竺の金色姫(こんじきひめ)は、4度命を狙われた末に桑の木で作られた舟に乗せられ、現在のつくば市神郡にある「豊浦の港」に流れ着き、息絶えた金色姫から養蚕が始まった―。神仏分離などイデオロギー統制の時代を経ても俗信的な民俗神が支持され、女性らの想像力がどのように生き続けたかにも興味が湧いた。

心地良さに従う


(1)観覧車のような洋菓子店の看板(2)作品はやがて土に還る素材で造られる(3)ツリーハウスのワークショップ

三兄弟の末っ子で実家は兵庫県内の鉄鋼所。算数の角度計算が好き、「やらされ感満載」の図工や技術家庭が嫌いだった。押しに弱いが型にはめられるのは何よりも嫌。そんなシンプルな性格に気付くまで、長くつらい回り道をし た。
高校卒業後、茨城県内の自衛隊に配属。厳格な規律と規則正しい生活の中でずっと封じ込めてきたものが爆発した。他人の目や評価が気になり過ぎてうつ病に。本当にやりたいこと、輝きたい自分、なぜ生まれてきたのか―。終わりの見えない禅問答の中、カレンダーの裏に理想郷を描いた。

自らに重ね合せた子どもたちが、自然の中で遊ぶ自給自足の村の絵。33歳で自衛隊を辞め徒歩や自転車、ヒッチハイクで国内を放浪。人と出会い、仕事を手伝い、酒を飲んだ。旅の道すがら、実家で父に鉄の切り方と溶接を教わった。自己流で村の看板を造り上げ「俺はやっぱりものづくりが好きなんだ」と実感した。勇気を出して初出展したクラフト市の売り上げはたったの500円。それでも自分が心地良いと感じる「世の中に見捨てられた素材」で作品を造り続けた。

可能性は無限大


初めて造った「理想の村」の看板(上)と構想図

制作と並行して、子ども向けのツリーハウス作りや流木を使った工作教室も企画。自信なさそうにくぎを打つ子には「失敗しても良いから思い切りやりな」と声掛け。夢中で取り組む姿勢を褒め、チャレンジする背中を見守る。「この村が、何かに苦しんでいる子どもたちの可能性を伸ばす場所になれば。喜びの循環で自分も周りも信じられるようになると思うんです」
失敗を繰り返し本来の自分を取り戻していく子どもたちの姿は、忘れかけていた胸の痛みを思い起こさせる。野球がやりたくて入った高校。「あした行こう」と言い訳ばかりでいたずらに入部を引き伸ばし、結局自分の可能性を試すことすらしなかった。野球部は程なく春夏連続で甲子園に出場し、いったい何が苦しいのか分からぬまま悪い仲間とバイクを乗り回していた。
「あの時逃げ続けたことも、今となってはいい思い出なんや」。いつものように工房に朝日が昇り、菜の花が風に揺れる。胸のワクワクに導かれ、暗くなるまでひたすら手を動かす。あれから約30年。ダメな自分も抱きしめて、今この瞬間を精いっぱい生きている。

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