もうすぐクリスマス。イルミネーションがきらめき、プレゼントやケーキを買い求める人で、街はワクワク気分に包まれる。そんな中、自らも楽しみながら縁もゆかりもない他者に、ささやかなプレゼントと夢を運ぶ人たちがいる。
「サンタさんの存在を信じていたのは高校生まで。親だと分かった時は、ちょっとショックだったかも」
2017年6月に発足したNPO法人チャリティーサンタつくばは、同NPO全国30番目の支部。イブの夜にサンタに扮(ふん)したスタッフが各家庭から事前に預かったプレゼントを届け、子どもたちと特別な時間を過ごす。代表の工藤咲希さん(23)は大学生の時にこの活動を知り、「いつかやってみたい」と思い続け、昨春から働くつくばで12人の仲間と活動している。
工藤さんにとって思い出深いのは、小学2年生の時のクリスマス。特別欲しい物がなく、サンタに手紙を書いた。難民の子どもがテレビに映り、「プレゼントはいらないので、恵まれない人たちにご飯をあげてください」と書いた。明くる朝、枕元には小さな箱が置かれていた。朝日にきらめくガラス細工のトナカイと、筆記体の英語で書かれた手紙が入っていた。「ウチの親は英語なんか書いたこともないはず。私のために一生懸命書いてくれたと思うと…」。15年前の出来事に、今でも胸が熱くなる。
秋口からクラウドファンディングで集めた資金でサンタの衣装を買いそろえ、訪問時に怖がったり疑ったりする子どもへの対応を学ぶ講習会も開いた。本番は24日の夜。「今度は私たちが、子どもたちの胸にいつまでも残る思い出を贈りたい」。
同日夕方からはつくばセンター周辺で鉛筆と消しゴムを配る「街かどサンタ」も行う。
「あの瞳だよ。きれいで、純粋なあのまなざしのために、私らは続けるんだよ」
守谷市の自営業中山初音さん(47)ももこさん(53)夫妻はそう言ってうなずき合った。サンタの衣装に身を包み施設などにプレゼントを配る活動を始めて、今年で28年目。毎年12月になると大量の菓子を仕入れ、袋詰め作業に追われる。
都内出身の中山さんは、寡黙な祖父と勝ち気な祖母に育てられた。両親と暮らしたことは一度もない。17歳の時に祖父が亡くなり、一人残された祖母。友人に電話で「寂しいから毎日星を見てるよ」と漏らす姿に、思い切って5000円のセーターと9800円のサンタの衣装を買った。プレゼントすると、照れ臭さからか「どうせなら近所の施設のお年寄りに歌でもプレゼントしてきなよ」と言われた。一人訪れた慰問先で「翼をください」を歌い、喜ばれた。社会人になってからも12月24日と25日は特別な日であり続けた。
18年前に茨城に転居し、09年からは夫婦で通所施設や保育園、障害者の作業所など16カ所を回り、ささやかなプレゼントを配る。弱者を社会から邪魔者扱いする事件が起きたり、正月やクリスマスに家族が面会に来ない入所者の境遇を知るたび、胸が締め付けられる。それでも白いひげをたくわえ、精いっぱいの笑顔で皆の前に登場する。「私は、この日のために太っているようなものですから」
「私たち、きっと楽しませてもらってるのよ」と、ももこさん。中山さんも「サンタさんは夢を運ぶ人。自分を待ってくれている人がいるのは、本当に幸せなことだよね」とうなずく。