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2017年2月27日(月)

ロングヒットの秘訣

作曲家・マシコタツロウ

「もらい泣き」「ハナミズキ」などのヒット曲を世に送り出した作曲家・マシコタツロウさん(38)。はやり廃りの激しい業界で、普遍的なメロディーに独自のアクセントを加え、長く歌い継がれる曲を紡いでいる。

太田の音楽一家


1978年、常陸太田市生まれ。作曲家、作詞家、シンガーソングライターなど多方面で活躍し、楽曲提供は嵐、SMAP、V6、EXILEなど多岐にわたる。茨城放送スマイルスマイルPlusi(毎週水曜13:00〜15:55)では軽快なトークで人気を博している。

物心ついた頃から、自宅のアップライトピアノをおもちゃ代わりに“音楽活動”を始めたマシコさん。5歳の時、母の勧めでピアノ教室に通い始め、以来鍵盤との付き合いが続いている。

―増子家は音楽一家だったそうですね。

「田舎にしては」ですね。曾祖父の代から公務員の家系で、父は学校の先生で母は保育士。親父がジャズファンでM・デイビスやA・ブレイキーのレコードを聴いてましたので、音が組み合わさって一つの曲ができていく感覚が自然に身に付きました。

―ご家族で演奏会に出ていたそうですが。

当時は「男がピアノを弾く」ってまだまだ珍しかった。小学5、6年生になると、父がウッドベース、母がクラリネット、僕がシンセサイザーでピアノ教室の発表会に出ていました。

―卒業アルバムの「将来の夢」はもちろん作曲家?

正確には作曲「者」と書きました。ピアノ教室ではクラシックを習ってたけど、正直、子ども心にはつまらなかった。それで、ある日先生に思い切って打ち明けたら「実は先生もなんだ」って(笑)。じゃあ楽しい音楽をやろうよってことで、ポップスに目覚めました。

―初めて買ったCDは?

Winkの「愛が止まらない」、洋楽はアメリカのロックバンド「ジャーニー」。中学時代はTMネットワークの「打ち込み」が好きでね。そうそう、小学5年生の頃に槇原敬之さんが出てきて、とにかくぶっ飛んだ。

―どんなところが?

まずメロディーがいい。そこにスラスラ「おいしい歌詞」が載ってくる。『雷が鳴る前に』には、「例えば紙くずを投げ入れたり横断歩道を渡る時に何か1つルールを決めて願いをかけたりしてる」とある。たった4小節の中に青臭い恋愛のジンクスをさらりと入れてくる。『くもりガラスの夏』では「自分のためだけにシーツを洗うよ」と歌ってる。失恋の喪失感をこんな風に表現できるって…。天才ですよ、彼は。

―作曲にも影響を受けた?

平凡な生活の一場面をよくよく観察すれば、人の心を打つ情景があるんですよね。「バラの花束は日常生活に出てこない」ってことなんでしょうね。

スペル間違い

初めて作曲したのは11歳の時。録音可能なヤマハのシンセザイザー「V―50」を買ってもらい、シンプルな3コードでインストゥルメンタルを作った。翌年、お年玉でカセットMTRを買い多重録音にのめり込んだ。シンセサイザーで作った音源に歌を入れ、自分でギターを弾いて曲を作っていく作業は、何よりも楽しい時間だった。

―曲は誰かに贈った?

中学2年生の頃かな、当時好きだった女の子に贈りました。ワープロで歌詞を打って。ワープロって今の子は知らないよね(笑)。タイトルは…「STAR RIGHT STORY」です。

―うまくいったんですか?

うまくいったんだけど、後にお別れすることに。その時にテープごと返却されて。がっかりしながら歌詞カードを眺めていたら、「スターライトのライトって『R』じゃなくて『L』じゃない?」って自分で間違いに気付いちゃって。赤っ恥をかきました(笑)。

―その頃と今とで曲作りに変化は?

う〜ん、基本的には変わってないなぁ。僕は作曲家なのでメロディーが先。まず音があって、一緒に言葉が生まれてくる感じです。

迷い、探し続ける自分

中学からバンド活動を始め、21歳の時に楽器店主催のオーディションで全国大会まで勝ち進むも入賞を逃した。大学では心を開ける友人も少なく、「毎日とても憂鬱で、週末は地元の友達とべったりだった」。大学4年の秋、レコード会社11社にデモテープを送ると2社から返事が来たが、就職浪人となり必死で曲を作ってはレコード会社に出向く毎日。翌年、転機が訪れた。バイト先のホームセンターのバックヤードで段ボール潰しをしていると、うだるような暑さの中、聴こえてきたのは弾けるような歓声と大音量の演奏だった。

―ひたち海浜公園のロッキンジャパンですか?

そうです。「俺は何でここでくすぶっているんだろう…」って思っちゃった。段ボール潰しも大切な仕事ですよ。それは間違いない。でもね、「本当は何がしたいんだ」って考え込んじゃった。それで親に「25歳までに結果出すから」ってたんかを切ったんです。

―すぐに上京した?

今でもよく覚えているんですが、バイト最後日は9月末。その日は棚卸の日ですごく忙しくて、先に仕事を終えた他部署から「しょうちゃん」が手伝いに来た。一緒に作業しながら、しょうちゃんは「タッちゃん、音楽やめっちゃうのげ?」って茨城弁で話し掛けてくるんですよ(笑)。何でも、そいつの叔父が今度都内で音楽事務所を始めるらしく、とりあえず連絡先を交換しました。翌月上京するとすぐ連絡が来て飲みに誘われた。店に行くと叔父さんはピンクのカーディガンを肩に巻いて、いかにも怪しい雰囲気(笑)。「曲を書いてほしい女の子がいる」と切り出され、誰ですかと尋ねたら、「一青窈っていう女の子なんだけど」って。その、ピンクのカーディガン=田村洋二社長が「作曲家マシコ」の生みの親です。本当に感謝しています。

ロングヒットは突然に


24歳の時、一青窈の「もらい泣き」で作曲家デビューを果たし、続く「ハナミズキ」はオリコン最高4位、週間シングルランキングは125週連続チャートイン。カラオケランキングでは90週連続でトップ5入りするなど異例のロングヒットとなった。

―世代を超えて歌い継がれる歌とは、どういうものでしょうか?

例えば毎日着る服や部屋のインテリアでも、シンプルなものは年齢を重ねても飽きが来ない。どこかで聴いたことあるけど、曲のどこかに僕のアクセントが利いている曲を作っているつもり。

―ハナミズキの歌詞は難解だといわれています。

9.11のアメリカ同時多発テロの時、一青窈がその時の感情のままに書いたノート2冊分の歌詞があるんです。そこから言葉を拾って曲にはめ込んでいった。歌詞の意味が所々飛んでいるのはそのためです。聴き手は歌詞の行間を埋めようと想像力を働かせますよね。ハナミズキの花言葉は「私の想いを受けてください」なので恋愛の歌かと思いきや失恋の歌にも聴こえる。人によっては不倫の歌にも聴こえるようです。

―「君と君の好きな人が100年続く」。この歌詞には「自分」がいませんね。

家族や恋人を大切にするのは当たり前。その「一つ先の愛や優しさ」、つまり他者への愛があれば世界は平和だってことなのかな。この曲はうどんに例えると分かりやすい。聴き手が素うどんに自由に天かすとかネギとかトッピングしてる感じ。聴く人の人生が変われば曲の印象も変わるから、長く聴かれるのかもしれませんね。

―現在のお仕事のスタイルは?

今は機材さえあれば誰でも曲作りできる時代。曲はコンペ形式で採用されますが、流行だけにとらわれずメロディーの良さを大切にしています。たとえ自分の曲が選ばれなくても、「もらい泣き」と「ハナミズキ」で初打席ホームランかっ飛ばした作曲家人生ですから…。調子が出ない時期もありますよ。人生山あり谷ありが当たり前だし。

マシコの青なじみ

音楽以外にも活動の幅が広がっている。毎週水曜、イーアスつくばで公開収録される茨城放送の番組は黒山の人だかりに。番組の人気コーナー「青なじみ」は、リスナーの悩みにマシコさんが即興の茨城弁で答え、人気を博している。

―「青なじみ」って茨城弁ですよね?

そうなんです、僕も最初は気付かなかった。放送を始めて茨城弁の奥深さを知りました。だって「1時間」が「いじちかん」、「ほとんど」は「ほどんと」って、何で逆になっちゃうんだろう(笑)。地域によって言葉もイントネーションも微妙に違うから、放送中は脳みそフル回転。時々「タツ兄、そういう時に『かえってどーも』って言わないよ」と指摘されたり。とにかく発音が命なんです。

―最近最も印象的だった言葉があったそうで。

んだよ、知ってっけ?「さぐぐ」っつうんだけど。遠慮なくって意味らしーんだけど。これと「ほげほげ(たくさん)」を合わせっと、「さぐぐほげほげ食え(遠慮なく腹いっぱい食え)」。

―「青なじみ」の放送時間を増やしてほしいという要望が多いそうです。

いや、あれは10分でちょうどいいんです。茨城県民は恥ずかしがり屋のくせに実は郷土の文化に結構誇りを持ってて、一丸となった時の団結力がすごい。番組では採用者にステッカーをプレゼントしていますが、もらった人が車に貼って「おめーもタツ兄のラジオ聴いでんのげ?」って常磐道や道の駅なんかでお互いアイコンタクトしちゃったりして。でも、たぶん声を掛けたりはしないでしょうね。なぜなら茨城県民だから(笑)。PR下手なのもうなずけます。

―息抜きの方法と今後の抱負をお願いします。

知らない場所に一人旅したい。ここ数年山登りをやっているんですが、音楽以外にできることが増えると、たとえ趣味でも「ここにも居場所がある」って不思議と心が落ち着きます。

「ハナミズキ」は今も僕の名刺代わりですが、ある意味あれを超えられる気がしないし、同じ曲は二度と作れない。クリエイティブな仕事はある程度自分勝手さが大切ですが、良質なメロディーと郷土愛のハイブリッドで、茨城を元気にできたらいいですね。

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