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2016年12月5日(月)

拝啓、ボブ・ディラン様

風に吹かれて佐賀さん名著復刊へ

土浦市の開業医・佐賀純一さん(75)が28年前に上梓した『浅草博徒一代』が、ボブ・ディランさんのノーベル文学賞受賞でにわかに注目を集めている。ディランさんが2001年発表した曲の歌詞に本の文節を無断借用したとされるためで、当時佐賀さんは「優れた作品同士が時を超え対話することで新たな価値が創造される」と、これを歓迎。受賞式が12月10日に迫る中、同じ齢を重ねた伝説の詩人の偉業に土浦が誇る文学者もにわかに心揺れている。

発端


ディランさんと同じ1941年生まれ。今回の受賞で「より親近感が湧いた」と佐賀さん

1978年(昭和53)の冬、一人の老人が佐賀さんの診療所を訪れた。一目で死期が近いと分かる肌。裸にして診察すると背中には「龍に牡丹」の刺青、その花弁には微笑する女が包まれていた。興味を引かれた佐賀さんは往診鞄に録音機を入れ、翌春まで桜川土手に立つ伊地知栄治の妾宅に通った。

「真っ当に生きてきた先生には分からないでしょうが…」。73歳の老博徒は、しわがれた声で嘘のような本当の話を切り出した。「法律に守られた私たち一般市民と違い、当時のヤクザは自分たちを守るための約束事や掟があった。日向で生きてきた30代の私には、すべてが新鮮だった」。

祖父、父と医者の家系に生まれた佐賀さんは、大卒後栃木の病院に勤務。28歳の時「世界を見たい」とハワイの病院にインターンしたが勤務中に心筋梗塞で倒れて帰郷し、父の診療所を手伝った。そこで耳にしたのは近所の左官屋や煙草屋、とび職が話す「どの本にも書かれていない街の歴史」。そんな矢先に出会ったのが栄治だった。外国暮らしを経験して多様な価値観に触れたためか、「不思議とヤクザに対する偏見や先入観がなかった。栄治さんはそんな私をどこかで認めてくれたのかもしれない」。

こたつでみかんを食べながら聞くアウトローの人生は、驚くべき記憶力とリアルな描写に支えられていた。診察の合間にテープを聞き返し、いざペンを執っても10年間一行も書けなかった。「私には賭場の雰囲気はおろか親分の女を奪った経験もない。栄治さんとは生きてきた世界が全く違った。あの話を聞いても、今の時代に正確な雰囲気を表現できる人はいないでしょうね」。

騒動

2003年5月、米紙・ウォールストリートジャーナルから一通のメールが来た。01年にボブ・ディランさんが発表したアルバムに『浅草博徒一代』の英訳に酷似した部分が複数見つかったという。欧米では訴訟を放棄すれば弱者とみなされるため記者は訴訟を促したが、佐賀さんが出した答えは「もちろん訴訟はしない。むしろ光栄」。

その理由をピアノのバイエルや和歌の「本歌取り」を例に、「全くの独創で何物からも影響を受けずに作られた芸術はない」とし、「声高に権利を主張すれば争いが生まれるだけ。僕はそういう思想とは違う考え方で生きていたい」。同年夏に事のいきさつが報じられると、世界各国から取材が殺到した。

受賞


10日の授賞式は「先約がある」ため欠席するというボブ・ディランさん(Kevin Winter /Getty Images)

2016年10月中旬、ディランさんのノーベル文学賞受賞のニュースを耳にした佐賀さんは「本来文学者に与えられる賞を音楽家がもらった。これはすごいこと」と思った。今でも「あの騒動」についてよく聞かれるが、取材は一切断っているという。「私は自分の桶に水(栄治の世界)を入れただけ。歌詞への影響もごくわずかですから」。ディランさんが詩を書こうと思った時、ちょうど良いフレーズを本の中に見つけただけで、「会ったこともない外国人が『ここに俺がいる』と思ってくれたということ。受賞式は10日だよね?なぜかこっちまでうれしくなるね」。

大正から昭和に生きた博徒の破天荒な人生譚は、時を超え伝説の詩人と共鳴した。そして、佐賀さんの元に思わぬ朗報が舞い込んだ。


10か国語に翻訳された『浅草博徒一代』

今年75歳を迎える佐賀さんは現在も週4日、土浦市桜町の診療所で地域の患者と向き合っている。病気を診るだけでなく、時間の許す限り患者と言葉を交わすのは在りし日の父と同じ。「時々若い女性も話をしに来ますよ」。このほど、長らく絶版となっていた本も文庫版で復刊が決まった。

「ディランさんのおかげで栄治さんの物語に新しい命が吹き込まれた。何と言えばいいのか、非常に面白いよね」。

伊地知栄治は15歳で年上の女の魅力にからめ捕られ、石岡で最期を迎えるまでそれは続いた。数々の女の愛を奪い、時には2本の指を詰めてでも己を貫いた。激しくも不格好なその生き方は、因縁の付いたあの『Love&Theft(愛と泥棒)』と妙に符合する。

「人間が生きる上でどうにも避けようがない愛を泥棒で表現ですか…。うまいですね、さすがはディランです」

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